「マティルダ!」 咎めた僕の声と 「お可哀想に」 いつものように、哀れみながらもどこかトゲのあるマティルダの声が重なった。 「……嘘よ。そんな話、聞いたことないわ! 先生、嘘よね? わたしがパリ音楽院の話をしたとき、先生は何も言わなかったじゃない」 「……ヴェラ……」 ひどく後悔した。 なぜ、あのときにハッキリ言わなかったのだろう、と。 “ハンマークラヴィーア”第4楽章を懸命に練習する君に、なぜ現実を教えなかったのだろう、と。