「そういえばヴェラ……」
マティルダがイスから立ち上がり、ヴェラのそばに歩み寄った。
「マティルダ、レッスン中だ。戻りなさい」
嫌な予感が的中するのを感じた。
厳しく言う僕のことなど無視して、マティルダはとうとう言い放ってしまった。
「パリ音楽院のピアノ科……、ハンガリー人のあんたは受験できないって知ってた?」
「……えっ?」
ヴェラの表情が一瞬で強張り、救いを求めるかのように、僕のほうを見る。
「外国人差別が酷いんですって。フランス人のわたしは受験できるけど、あんたにはその資格さえもないのよ」


