「それじゃ……」
「待って、ヴェラ」
帰ろうとしたヴェラを引き止めたのはマティルダだった。
「暖炉で少し暖まってから帰りなさいよ」
にこりと笑うマティルダにヴェラは少し躊躇していたが、すぐに笑顔で「ありがとう」と言い、暖炉の前のソファに腰掛けた。
「……ヴェラ、早く帰ったほうがいいんじゃないのか?」
嫌な予感がした。
僕はまだ、パリ音楽院のことをヴェラに話していなかったから。
マティルダが皮肉っぽくそのことを話すんじゃないかと咄嗟に思い、ヴェラに帰るように勧めたのだが
「ううん、大丈夫よ」
ヴェラは、パチパチと炎の燃えさかる暖炉に冷えた手をかざしながら微笑んだ。


