「あの子、入学どころか、受験さえもできないってこと分かっていないみたいね」
返す言葉が見つからず、僕はただ苦笑することしかできなかった。
パリ音楽院は、外国人差別がとかく酷い。
特にピアノ科は志望者があまりにも多いため、外国人は受験さえもできないのだ。
ヴェラは、ハンガリー人。
マティルダは、ピアノに専念するためにこの土地にやって来たフランス人。
同じ技量を持っているのに、ヴェラは外国人というだけで門前払いだ。
そして、ヴェラは、そのことを知らない様子だった。
「先生、ちゃんと言った? 現実を教えなきゃ、あの子かわいそうだわ」
哀れみの言葉を口にするものの、マティルダはどこか楽しげな様子だった。


