「で、なにを弾くの? いま弾いた幻想即興曲?」 「いえ、違いますよ」 弾く曲はもう、決めてある。 にっこりと笑ってその曲名を口にすると、山田先生は自分の耳を疑ったかのように「え?」と眉をひそめた。 「だから、」 もう一度、はっきりした口調で曲名を伝える。 すると山田先生は、「……ほんとうにあの曲を?」と念を押すように何度も確認してきた。 「……あの曲じゃないとダメなんです」 ……ほんとうに、あの曲じゃないと意味がないんだ。 蜂谷と律の前で弾くのだから。