山田先生はレコードを止めると、俺の傍らに立って聴く姿勢に入る。
鍵盤に静かに指を置き、小さく深呼吸をする。
いつもの、ピアノを弾く前のちょっとした儀式。
幻想即興曲を覚えている10本の指は、滑らかに鍵盤のうえを踊り始める。
ピアノを弾きながら、ふと、蜂谷と律、そして遠い過去のことを思い出した。
もしも俺が、“あの曲”を弾いたら2人はどんな反応をするのだろう――……?
曲を弾き終えると、山田先生はひどく興奮した様子で拍手を送ってくれた。
「すごい、上手なのね!」
褒めちぎる先生に、間髪入れずに言う。
「先生、今年の文化祭のピアノ演奏、誰か出るか、もう決まってます?」


