「……フレデリック・フランソワ・ショパン、“幻想即興曲”」
クイズの正解を答えるかのように、ピアノ曲のタイトルと作曲者名を口にしてみる。
幻想即興曲は、理由は不明だがショパンが出版するのをやめた曲。
彼は自分の死後に未出版の曲を捨ててほしいと言ったらしいが、その願いもむなしく、この曲は彼の没後に出版された。
ショパンには悪いけれど、俺はこの曲が好きで、世に出るべき作品だったと思っている。
……この曲、確か小学1年のときのピアノの発表会で弾いたな。
あの年齢であまりにも完璧に弾いたもんだから、みんな圧倒していて。
父さんも母さんも、本気で俺をピアニストにさせようとしていたっけ。
天才だと持てはやされたけれど、それはちがう。
長い転生のあいだに、何度となくピアノに触れる機会があったのだから。
家に帰ろうとしていた足が、ショパンの曲に引き寄せられるようにして音楽室に向かう。
2階にある音楽室の引き戸を開けると、音楽の山田先生が驚いたようにこちらを振り返った。


