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 新宿区内にある特養<花の沢>に行くと、半世紀前に医師の飯岡生馬の子供を身篭った中澤国子と、その国子を自殺に見せかけて巧妙に殺害した飯岡のことを知っている水前寺圭作という男性がいた。


 八十代の男性で、頭には白髪どころか、毛もほとんどない。


 ホントにこの爺さんは国子の呪いと自殺Tubeの関係を知ってるのだろうか……?


 いぶかしむ気持ちがまだ強い。


 記録媒体であるICレコーダーはジーンズのポケットに入れて持ってきている。


 いつでも録音が開始できるよう、バッテリーはフルに充電してあった。


 水前寺はほとんど寝たきり状態で、いつ死んでもおかしくない。


 この男が無念のまま死んだ国子や、日本刀で割腹してみせた飯岡のことについて、当時のことを知る最後の人間だろうと思われた。


 まさしく語り部である。


 このおぞましいまでの霊魂が、非常に現代社会的な動画ソフトに乗り移った形で、その霊力を発揮しているのだ。