『どこにいるの?ゆうこさん』
「応えちゃ駄目だよ?ゆうこ」

本体のシンの声、生霊のシンの命令。
頭の中と、耳の奥が心地よい甘い響きで揺れた。

生霊のシンに連れられて、移動する間中、
本体のシンから、数度声を掛けられたが、
心を鬼にして無視した。

スペインに着いてすぐ、あの空港の惨劇が起きて、
心身共に弱っている私の手を取り、
シンはテキパキと白髪に、色々な指示をした。
タクシーに乗って、海辺のホテルへ。
シンと私は生霊で、姿が見えない為、
白髪が全ての手続きをこなした。

ホテルは白いビルで、中の照明がとても暗い。
当然のように、ホテルの中をうろつく人種は白人ばかりだ。
「日本に、帰れるかな・・・私・・・?」
呟くとシンは、私を安心させるよう、柔らかく笑ってくれた。
「心細い?」
シンの大きな黒目が、私を捉えている。
二重の優しい瞳は彫刻のように、
美しく細かい作りをしていた。

絶妙なバランス。

「・・・大丈夫」
ほっと息をつきながら、私は頬を染めていた。
「赤いよ?」
「えっ」
指摘されて思わず顔に手を当て、シンを見た。
火照った頬の熱さが、手の平から伝わって来た。
どれだけ私の顔は、赤くなっているのだろう。
シンと目が合うと、
シンは驚いたように、目を見開いて固まった。
素早く視線を逸らし、また私を見た。
困った顔をして、口元に手を当てる。
「・・・なんか俺まで赤くなりそう」