サグラダ・ファミリア

もう何も要らない。

未来が特に要らない。
過去が欲しい。
狐が傍に居て、触れられて、
声が聞けて、話ができた過去が欲しい。
こんな静かな空間に、一人きりで居ては気が狂う。


生霊で良かった。

すぐ消えられる。

役目を果たしたら、すぐに消えられる。

生霊で良かった。



「ゆうこ」

あれほど、呼んで欲しくて、たまらなかった声。
今は何も心を動かされない声。
建物の戸に、シンが立っていた。
本体のシンは、私をゆうこさんと呼ぶ。

これは、生霊のシンだ。


「狐が消えてしまって、泣いているの?」
「遅いよ、シン・・・!!
 ・・・遅いよ!」
「ごめん」
「狐と私で二人で、追い詰められてっ、
 私がもっと早く巨人を倒せば、
 私がもっと早く、
 力の使い方を、もっと早く覚えてたら・・・!
 シンがもっと早く来てたらっ、
 ・・・うあああああ!
 狐が消えちゃった、消えちゃったのっ、
 私がもっと早く、
 もっと早く・・・!」
「落ち着いて」
「今すぐ消して、私のこと消してよ、
 生霊なら消えられるでしょ、
 お願いだからもう、
 狐の居ない世界に一人にしないで」
「一人じゃないよ、俺がいる」
「狐が居ないと寂しいよ、一人だよっ・・・」
「・・・」
「狐が消えちゃった」
「・・・」
「狐が・・・」