サグラダ・ファミリア

龍さんの水で、飛ばされた時も、
もう駄目かと思った。
その時と決定的に違うことは、
狐が消えたことを、「わかっている」こと。
咽喉が詰って、苦しい。

『狐兄ィ、ゆうこさん!
 無事ですか?!
 本体側、避難しました!
 他の人連絡取れないんすけど、
 どうなってんですか?
 オレ、援軍行きましょっか?!
 シンさんに、自由にしていいって言われたんで、
 オレもう捕虜じゃなくなって、
 動き回れるんです、
 おーい!
 どこ居るんですかー?』

白髪の軽快な呼びかけが、
耳を右から左へ抜けて通り過ぎた。

私はふらふらの身体を引き摺って、
狐のものであろう、黒い血の中に、寝そべって放心した。

それは血であって血ではない。煤のようなものだった。


黒いチョークのように、パサパサと身体に付いた。

「ふあ、・・・ぅあぁあ、ぐっ、・・・っう、うぅ」

泣き声というものは、得てして情けないもの。
女らしさの欠片もない、悔しさと苦しさに溢れた悲鳴。

胸の痛みが酷くて死にそうだ。


失ってしまった。

大切な存在を・・・。