サグラダ・ファミリア

建物に逃げ込んでから、一時間経った。

巨人は相変わらず、
入り口から覗いては、狐に退治される、
を繰り返していた。

その巨人の来襲も、
15体目ぐらいになって、私と狐は息を呑んだ。

小柄な巨人だったために、
入り口を潜って、中に入って来たのだ。

手には、坊主の数珠。

中に入って来ようとした際、
狐が火を放ったが、その数珠が火を吸収した。

つまりこの巨人に、火は通用しない。


狐は私を見た。


私の力で、倒すしかないのだ。
不確実な、私の力で。

巨人は色々な所に頭をぶつけながら、
私達を探している。
しゃがんだ姿勢で動くので、遅い。
しかし、
その巨大な身体で、驚異を振りまいていた。


腕を噛んで、歯の震えの音を殺しながら、
私は何度も意識を集中した。

最初、思い描いた時と同じように、
バスケをする時のゴールを想像した。

空港の、
一般人が入れない建物、
油の匂い。異国の景色。
初めて見る、飛行機メンテナンスの、巨大な器機。
あらゆる非日常が、イメージを妨げた。

私は本当に、日本という国で、
高校に通っていたの?
私という存在は、本当に今まで人間だったの?

通学路の電信柱に張ってある、
痴漢注意のポスター。

年季の入った商店街のお店。

信号が青の時に流れるメロディ。

教室の扉の、小さな傷。
扉を開けて映る景色。

二週間消えてない黒板の落書き。



一つ一つを、思い出すのが、
どうしてこんなに大変なのか。
どうしてこんなに温かいのか。
戻りたい、とまた内側から、叫ぶ声を抑えて、
集中の仕方を思い出す。
バスケットボールをドリブルする感触。
ゴールに、目のピントを合わせる感覚。

ついに巨人が、1メートル横を、
指で触れた。