サグラダ・ファミリア

「後でね」
涙声で、送り出しの言葉を、やっとの思いで吐き出す。
「泣くな」
狐は私の頬を、軽くつねって、笑った。
「泣いてない」
「あっそ」
いつまでもこんな、
憎まれ口を叩き合って、時間を潰したい。
狐は私から天へ、視線をうつした。

そして、鼻先から獣に変化していった。

気配だけの生き物。


江戸時代の筆づかいで、
描かれた狐そのものの姿になり、
すぅっと飛び上がって、飛行機の天を抜けた。

意識して私は、第三の目を開いた。


飛行機は既に着陸しており、
滑走路でゆるやかに、
スピードを落としに掛かって居た。
巨人たちは飛行機を囲むように、
相変わらず平行して歩いていた。

飛行機の上に、小さな獣を見つけると、
こぞって手を伸ばして来た。
しかし獣は鋭く火を放ち、
巨人たちはのろのろと手を引っ込める。
それからモソモソと相談を始め、
止まった飛行機の周りを取り囲んだ。

巨人達が、一斉にこちらに腕を伸ばして来た。

獣、狐の火がそれを邪魔する。



癇癪を起こした巨人の一人が、狐に向かい、
虫を払うよう、手を伸ばした。

狐は火を出して、応戦したが、巨人は怯まない。
狐を潰そうと、ばしん、ばしん、
と飛行機の表面を叩いていく。

狐はそれを避けながら、他の巨人が、
飛行機の中に手を突っ込まぬよう、火を放つ。


ついに、狐を打とうと苦戦していた巨人が、
狐を潰したように見えた。



「いやっ!」

私は思わず声を上げた。




「え?!え?!どしたんすか?!
 何か起こったんすか?!」


白髪が反応したが、
説明する余裕はない。