サグラダ・ファミリア



『やっぱり、微笑ましいじゃないですか』


ザビエルさんの冷静な声が、耳に痛い。
シンの様子を伺うと、窓の外を眺めていた。
夕子と会話をしていなかっただけマシ。

「・・・」

シンの形の良い鼻先と、
唇をいつまででも見つめていたい。

視覚から入る情報は、
結構、
重要なんだなと実感する。

シンは恐らく、私の好みの見た目の、
ど真ん中に位置する。
見ているだけで、幸せになれるレベルだ。


ふと、腕に絡まっていた狐が少しみじろいだ。

「どしたの?」


声を掛けると、
狐はばつが悪そうに、獣の目を細めた。
「シンばっか見てんじゃねーよ」
「・・・」
惹かれて、意識して、気持ちを乱されて、
想うことが辛くなるシンとの接触に比べ、
狐とのやり取りは、気安くて、心が温まる。

狐が傍に居るだけで、怖いものがなくなる。

「ほっといてよ」
「ほっときてぇよ」
「・・・」
「ほっとけねぇからイライラしてんだろ」
「バカ」


クスクスと、シンが笑い声を上げた。

夕子との会話で、何か面白いことがあったようだ。
シンの形の良い顔が、可笑しそうに歪む様を、
瞬きもせずに眺める。


私はシンと一緒なら、破滅しても良い。


いっそ、破滅したい。

生霊に人としての未来がないこと、

これまでのように、
生きられないこと、

当たり前の一生が送れないことを思うと、


私の意識は自然、破滅に向かう。
一人で消えるのは寂しいから、
何か一つ欲しい。
シンが欲しい。
勝手で恐ろしい、願い。

それが、叶わないなら狐と共に生きながらえたい。