サグラダ・ファミリア

次に続く言葉が、出てこない。
狐も黙ってしまって、会話が進まない。


まもなく、着陸致します。


放送の声が、遠くで聞こえた。


すると、狐は窓の外を睨んで、私の手を取った。
こんな会話の途中でも、
手を繋ぐことに抵抗のない狐が、何だか愛しい。

「狐・・・」

声を掛けたが、無視された。

一方、脳内通信で、
突如始まった色恋の修羅場を、
ザビエルさんを始め、
通信に参加できる人たちは、
固唾を飲んで見守っていた。

ザビエルさんは、
恋愛ドラマでも観覧しているような、
真剣な顔をしており、
大変申し訳ない気持ちになる。


というのも、残念なことに、現在、
恋愛ドラマにおいて、
主役の男にあたる狐は、主役の女にあたる私の腕に、
顔面蒼白で、力一杯しがみついている。

手を握るだけでは、足りなかったらしい。
狐はもう両腕を、私の腕に絡ませ、
今まさに、格好良さをかなぐり捨て、震えている所だ。

飛行機の降下音を、聞くまいと耳をたたみ、
目をかっぴらいて額には汗汗汗。



「ゆーこ、俺・・・怖ぇわ、今、本気で怖ぇ」
「慣れろよ!!二度目だろ!機長を信じろ!
 っつーかさぁ、
 頼むから、・・・ムードとか、
 もう、ちょっっとでいいから、
 考えてくれないかなぁ!
 ・・・なんか、こう、
 萎えちゃうから・・・」
「おまえ!こんな鉄の塊が、
 地上に激突しそうな状況で、
 ムードもクソもあるかよ!」
「激突とか言うな!
 大人しくしてれば無事でいられるから」
「ほ、ほんと?」
「あー、もう、何、この?!
 私があんたを何があっても守ってあげるぞ的な状態!」
「まっ、守ってくれんのか?!」

狐は情けなく眉を下げ、口を半開きに、
聞いて来た。
幼く見えた顔に、庇護欲をそそられる。

「ちくしょう!何があっても守ってやんよ!
 あたしに捕まってな!!」
「ゆーこぉ・・・!!」