日本からヨーロッパまでと違い、短い旅。
しかし機内食はきちんと出るもので、
狐は再び、ピーナッツの小袋と睨めっこをしていた。

黙ってその小袋を奪い、開けてやる。
その横で、シンが夕子に、
ジャムの蓋を開けてやっている。


『何だか、微笑ましいですね』


ザビエルさんが冷やかして来たので、
私はシンと夕子、狐を順に見て、片眉を上げた。


『いっとくが、俺は、ふられてるぞ』
『え・・・?!』

『え?!』

狐はいつも、唐突に、とんでもないことを言う。
ザビエルさんの動揺と、私の動揺。

『婚儀を申し込んだが、返事をもらえなかった』

『うっそ狐兄ぃ?!傷心?!傷心だったの?!』
『ゆうこ様!何故・・・?!
 何故ですか?!
 狐様は、これでも、
 赤狐(セキコ)の御先稲荷(オサキトウガ)ですよ!
 神道系の善狐で、
 狐の中では神クラスですよ?!』

「私・・・別に、ふってない」

「・・・!」
「えぇ~」

眉間に皺を寄せた狐と、安心したザビエルさんと、
うっかりつまらなそうな声を出した白髪。


次の瞬間には、狐の拳骨をくらい、
脳天を押さえて涙ぐむ白髪と、
良かったですね狐様、
と狐に向かい微笑むザビエルさん、
不満そうな狐、
複雑な心境の私が居た。

ふってはいないけど、応えてもいないんだよね。
考えたいっていうのは、駄目なのかな。



『ゆうこはシンが好きなんだよ』



また、狐の爆弾発言。


私はぎょっとして、思わずシンを見た。
シンはそ知らぬ顔で夕子と歓談している。



『生霊のほうの、奴が生きてた以上、
 俺に望みはなくなった』

『・・・』

『ゆうこはもう、
 俺を見ない、
 もう一人のシンが気になって、
 仕方がない、って感じだ、
 ・・・これでも歳食ってるんだ、
 女の心の動きぐらい読める』

『狐・・・』

『俺もずるかった、
 おまえが心細い所、
 狙ってああいうこと、
 言ったんだからな』
『・・・』
『俺のことは、
 もう気にすんな』

『何それ・・・』