夜明け前。コンコン、と窓を叩く音。
窓の外に、
頬にホクロのある、白髪の外国人が浮いていた。
「・・・ゆうこちゃん」
低く響く、誘惑の声。
「開けて?」
異国のホテルの朝。幻想的な光景。
『あ、狐?ちょっといい?
窓の外に妖しいヴァンパイアが居るんだけど?』
『待ってろ』
脳内電波を飛ばすと、
狐はすぐにやって来た。
私の代わり、
窓の前に行くと、
勢い良く、開けた。
「狐兄ぃ!」
白髪は狐に飛びつきながら、
部屋の中に入って来た。
「何で!また!てめぇは!
ゆーこを誘い出そうとしてた?!」
一語一語の、区切りに乗せて、
狐は白髪を、
ひっぺがす、
殴る、
蹴る、
と虐待した。
「違うんです違うんです!聞いて下さい!
オレ虐めを受けたんです!
シンさんにこっそり締め出されたんです!
あの人虐めっ子です!
俺が人に招いてもらわないと、
建物入れないの知っててっ」
「あーあーウルセェ、
状況はわかった、
さっさと中入って仕度しろ!
汗臭ぇ!」
「昨日皆さんがホテル入って行く時、
俺だけ目の前で扉閉められてっ・・・」
「あいつは真性嫌な奴なんだ、
おまえ着替えは?」
「ないっすよぉ、
車のトランクです」
「俺の貸すからまず風呂入って来い、
あと30分で出発だぞ」
「さーせん!!お世話なりますっ」
白髪はバタバタと部屋を縦断し、
バスルームに入って行った。
夕子はすでに仕度を終え、
出て行ってしまっている、
部屋の中には、私と狐だけ。
私はこれみよがしに、
成田で買った荷物の中から、
着替えを取り出して、
狐を見た。
「着替えんのか?」
「うん」
狐は無言で部屋を後にすると、
白髪の入っているバスルームの戸に、
尻尾の毛を一本を貼り付け、出て行った。
恐らく、鍵代わり。
*