「大変だったね」

車の中で、シンが声を掛けて来た。

「大変なんてもんじゃねっすよー。
 やっと問題の女のコ連れ去れたと思ったら、
 んもう・・・!
 この御稲荷様が怖ぇの何の、
 ぐぁーって追って来て、
 ばりばりっと入って来て、
 ぼぁしゃーって、
 ふっとばされたと思ったら、
 ドン!ですよ」

「君に話し掛けたんじゃないんだけど」

私の代わりに応えた白髪に、
シンが容赦ない突っ込みを入れた。

「わかってたよ!わかった上で、
 あえてだよ!
 つい!・・・ついだよ!あえて!」

「どっちだよ」

狐がさらなる突っ込みを入れると、
白髪はohと小さく唸り、両手で顔を覆った。                                                          

「このヴァンパイアは何なの?」

シンが白髪を指差して聞いて来た。


「友達を人質に取られているんだって」

「ゆーこと交換に返してもらえるんだと」

「・・・誰がそんなことを?
 僕等の敵だね」

「確か、高坂シンとか、名乗るアホっす」


ぶほっ、と狐が噴出し、
私は眉間に皺を寄せた。


「俺が、高坂シンだけど?」

「え?まじっすか?!」

「でも、君等の仲間を人質に取った覚えも、
 ゆうこさんを攫ってくるよう、
 指示した覚えもないね・・・」

「・・・同性同名の野郎の仕業ってことっすか?」

「いや、同一人物、俺じゃない俺の仕業だ」

「意味わかんないっす」

「生きてたってことだな、もう一人のおまえが」

「何を考えてるんだろう、・・・嫌な予感がする」


もう一人のシン。
生霊の方の、シン・・・。

が、生きてた?


大人しく攫われていたら、もう一人のシンに、
会えたんだろうか。