「来た!」
と、突然、護衛の坊主が叫び、電車が急停止した。

『ただいま赤羽駅で停止信号が押されました、
 少々お待ち下さい』

アナウンスが流れて数秒、どぅん、と空を揺する音。
どかっ、と腿に重さのある靴底の感触がして、
顔を上げると茶髪にピアス、目の下に隈。
鋭い三白眼の、いかにもな不良ルックの、男がいた。
しかし、耳が。

「あっぶねぇな」

掠れた声で怒鳴る男の、耳から目が離せない。



狐の耳が、人間の顔の横に。



良くみたら目も、釣りあがり気味だ。
黒目も茶色掛っている。
腿に足を掛けられて、固まったまま、
観察を続けている私に、
狐耳の不良は怖い顔をした。

「気をつけろ!」

何に?
「あっ」
瞳孔が、動物だ。
「ん?」
人の目と明らかに違う。
と気づいてぷつぷつと全身に鳥肌が立った。

「シン、シンこの人、人じゃない!」
「狐だね」
「きっ・・・、」

放課後の静まり返った教室のような、
気の遠くなるような、異様な雰囲気。

狐は「やべっ」と呟いて一瞬「頭」を「無いもの」にした。

首なしの体が2、3秒目の前。

そして人の耳をした顔がその場に、
さも、初めから、ずっと、消えずにあったかのように、
現れて眩暈がした。

「っふ、ぅぅ、・・・ぅぅー、ぅ」
流すのを忘れていた涙がまた流れ出し、
嗚咽まで始まって、さぁ大変だ。
シンが背を撫でてくれる一方で、狐が慌てている。

「俺が泣かした?!」
「うぅぅ、ふぅー、」

早く泣き止みたいのに。衝動が抑えられない。

「狐、やり方が派手だよ」

「あ?
 おまえに言われたくねぇし、
 つか、
 おまえが一番傍に居たくせに、
 何、
 侵入許しそうになってんだよ!」

「侵入ってなに?!」

涙を目に溜めたまま、問うと狐がさらりと、
何の迷いもなく、私の腹に手を当てた。

セクハラ、と思ったけど・・・黙っていた。

「おまえ、自分の排卵日とか、
 覚えてるか?」


「セクハラ」


「黙れ、・・・ええと、要は、今日が、
 おまえの排卵日で、」
「きも、何把握してんの?!きもっ!!」
「黙れ!!!!」