『駄目だ』
『お願い、
 そっちの事情を教えて・・・?
 貴方たちが、何かに、
 困ってるのはわかった。
 協力できることがあれば、
 協力したい・・・、
 お互い傷つけ合うのはやめよう、
 どうして力で解決しようとするの?
 どうしても、
 争わなきゃいけないの?
 それしか道はないの?』
『俺達は・・・、
 仲間を人質に取られてる、
 交換条件に、
 あんたを差し出せと・・・』

窓の外の狐が、車を外側から、
グシャっと圧力で潰しに掛かり、
運転手は一度窓の外を見た。
それから、舌打ちし、そっぽを向いた。

『悪かった、乱暴なやり方をして・・・、
 しかし、
 言葉を交わしたこともない他人に、突然、
 ・・・、仲間の身代わりになってくれなんて、
 頼めるか?』

『ゆーこ!』

狐の声。


狐に目をやる。
車がシューシューと音を立て、溶け始めていた。
運転手は頭からバケツで水を被ったよう、汗だくだ。

「ははァ、これはまた、
 ・・・随分と、
 厄介な敵さんだなァ」

龍さんはまったく困った様子でなく、
むしろ愉快そうに、膝を打ってみせた。

「龍さぁん・・・」

白髪が涙声で、龍さんを伺う。



「4日は動けぬ大怪我をこしらえてヤッタと思ったが、
 いやナカナカ、しぶとい奴さね」

龍さんは刀に手を掛けながら、狐を見やった。

「オォ若ぇの、今度は怪我じゃァ済まねェゼ」

『殺すってこと?』

私の声は、低くなっていたと思う。
龍さんは片眉を上げ、ウ、と唸った。

『その刀で?』

バキン、と音がして、刀が折れた。


「オイオイ・・・」


龍さんは頭に手を当て、
刀を哀しげに見ると、私に顔を向けた。

「何てェことしてくれやがる・・・、
 あんた鬼か?」

笑いを噛み殺した、言い方に不安感。
刀を折ったぐらいでは、駄目なの?
まだ、狐を殺せるの?貴方は?

『狐に手を出さないで、
 もう一本、折られたい?』

それでも脅しをかけるしか、ない。

「ウッハハハハハハ!・・・おォ怖ェ」

龍さんは歯を出して、腹の底からの、
笑い声をたてた。