そこで、どん、と窓を叩く音。
振り返った運転手の顔が恐怖に染まり、
「わー!ヤベェ!ヤベェーーー!
死ぬうううう!!」
白髪が騒いだ。
「チョイと黙っておくんな、喧しィや」
龍さんが嗜めると、白髪は息を止めるよう、
口を閉じた。
狐が窓の外に立っていた。
拳で、どん、
とまた窓を叩き、
開けろ、
と口を動かす。
何時の間に起き上がったの?
狐の服の前は黒い血で染まりきっていた。
飛ばされた後、地に落ちた時打ったのか、
頬には青い痣。唇からは出血。
私の姿を覚えると、両手を窓ガラスにつけ、
眉を下げ一瞬焦った顔。
その後、いよいよ怒り狂った、
恐ろしい形相になり、車を赤い気で覆った。
オマエタチヲタタリコロス
もはや人の声と、掛け離れた自然の囁き。
狐を心配していた私さえ、
凍りつくような、酷い気配。
『女、これはどういうことだ?』
運転手の声は、些か震えていた。
『根性のある奴でごめんね、
でも、酷い怪我してるのわかるでしょ、
あんな傷を抱えて、平気なわけない、
狐を、助けて、
ドアを開けて、
この車に、乗せてあげて、
私の傍に寝かせてあげて、
言えばわかる奴だと思うから、
貴方たちに危害は加えさせない!
私達をもとのところに、
戻して・・・!』