狐はきょとんとして、傷に手を当てた。
それから私を見て、私に手を伸ばした。



ザン、と狐の体を、下から大量の水が襲った。
狐は一瞬で、その場から消えた。
上へ上へ、飛ばされたのか、
消滅、させられたのか・・・。

私には悲鳴を上げる力がなく、涙を溢すのみ。


天井が開かれた車の中は、
ポタ、ポタ、と水の落ちる音に占められていた。

「こっ・・・わっ・・・かったぁ~!!」


白髪は腹から出したような声を上げ、
片手で頬をなぞった。

「もー、やだ、だから嫌いなんだよ、
 ああいうやくざっぽい神族!
 聞いた?
 苦しんで消滅しろ、って神の台詞?!
 ないわー、・・・まじっ、ないわーぁ、
 っつーか龍さんすげーっすホント、
 居合いだけでもカッコイイのに、
 逆滝?っつーんですか?水柱どーん、てこう、
 ねぇ?!・・・すごくね?!すごくね?!」

「Sie waren wunderbar」

運転手がまた、謎の言語で喋った。
それに対し、白髪が興奮気味に、

「Und nun empfehle ich euch Gott,
 geht in die Kirche,
 kniet nieder vor Gott und bittet ihn
 um Hilfe fur unser braves Heer!!!」

と続け、

私は目が回った。


「おい、お二人さん、
 オレにわかるよう、
 喋ってくれネェかぃ、
 仲間外れはさみしィやな」


侍が、塩辛い声で、
可愛いことを言った。

「あー、めんごめんご、
 えーっとね、
 俺達、やれる気がする、
 って話!」

白髪が、人懐っこく笑い、
侍も、そうかィ、と呟いて微笑した。
肥満の運転手がエンジンを掛けた。
そこで見逃せない光景。

私は先ほどから、第三の目のような、
不思議な見方で、状況を把握していた。
寝たきりの私の頭に、
周りの景色の情報が、不思議と入って来ていた。
生霊の特別な視力なのか、
私に備わった能力なのか。

そんな疑問よりもまず、
車の外側の、とある景色。

前方の車道に、狐が転がっている。