サグラダ・ファミリア

「ちょっとごめんよ!」
彼の手が頭の上を触り、耳の後ろをなぞった。


暗転。

気が付いた時には、トンネルの中を走る車の、
後部席に横たわっている状況だった。
気を失わされて、連れ去られたのだ。夕子の姿は無い。
無事で居るといいな、と思いながら、あたりを伺う。

あの、白髪の来訪者が、
膝枕をしてくれていることがわかった。

品の良いスーツを着て、
さっぱりした顔。頬に黒子がある。


「あ、目ぇ覚めた?」



ネコのように、牙が発達しているのが見えた。

人じゃないな・・・。


「なんかごめんねぇ~?
 そっちも、都合はあったとは思うんだけどお、
 オレ等もちょっとピンチでさぁ、
 仲間が人質取られてんの」

耳に響く流暢な日本語に、安心する。
「日本語、お上手ですね」
思わず、日本語の巧い外国人扱いしてしまったが、
この人は誘拐犯。さて、どうしよう。
「あー、オレ日本好きで200年ぐらい暮らしてて、
 てか今も住んでてね!
 大学生やってんの・・・、
 早稲田の国際教養
 君、高校生だよね?!
 進路とかもう決めてんの?
 うちどう?楽しいよ?」

その話は今しないで。

「まぁ生霊なら関係ないっか!
 ねぇねぇ、今度ほとぼり冷めたら遊ぼうよ~、
 お互い、
 消滅しないで帰れたらの話だけど!
 あ~あ~、早く日本帰りたいね~!
 君、どこ住み?
 オレ高田馬場なんだけど、
 今度引っ越そうと思ってて~!
 いいとこ知ってる?」


それにしても、この人凄いおしゃべり・・・。


「主流の大学は行き尽くしちゃったから、
 今度マイナー攻めてこうかなーって思ってて、
 どうせなら大学の傍に住みたいじゃん?
 だからー、
 今通ってるとこ、あと二年で卒業するからー、
 それまでに目星つけとかないと・・・」

「Seien Sie still」


運転席から、嗜める声色。
何を言っているのかは、わからない。



「Ja」



白髪は短く応じ、
以降黙った。
運転席に座っている男は、
ぬいぐるみのように大柄で、ぷよぷよしている若者。
助手席には、反対に、小柄な侍。


侍?!