サグラダ・ファミリア

「じゃ、この話はなかったことに」


狐は飄々と、そんなことを言って、
ふっと消えた。
そこに狐が居たのが、嘘のように。

巨人(に見せかけた小人?)が襲撃して来たのが、
嘘のように。


部屋は元通り、薄暗く、整然とし、
ホテルらしく落ち着いた雰囲気を取り戻していた。

窓際の机にはアメニティ、窓の外には夜の闇。
二つのベットの間に、
蔦モチーフの装飾が施されたお洒落な灯柱。
カーペットには、どうしてもついてしまう、
小さな埃。
部屋は、現実の匂いを充満させていた。


「あああ、どうしよう、
 プロポーズの現場、初めて見た!
 いいなぁ・・・!」

夕子が無邪気に叫び、
私は今更、頬が熱くなった。

何考えてんの?あいつ?



簡単になかったことにするぐらいだから、
たぶん何も考えず、口にしたんだろう。
人間界では、それなりに一大イベントなんだけどね、
プロポーズって・・・。

きっとルームシェアみたいなノリだったんだろうけど!

または、

ぼくおおきくなったらゆうこちゃんをおよめさんにする!
って言う幼稚園児みたいな!

そんなノリだったんだろうけど!


「あーっ」
と呻いて、頭を抱える。
思い出すのは狐の顔。

「ゆうこさん?」

提案をした時の、狐の顔は真剣だった。

軽かったけれど、冷静な声だった。
本気で言っていたのかもしれない。

でも、狐のことだから。



ぐるぐると考えて、
考えれば考える程、混乱して。

「ゆうこさん、ゆうこさん」

夕子に肩を揺すられ、
はっとして、ふと窓を見ると、また狐。
コンコン、と窓を叩く。
口が、開けて、と動いた。


今度は何?

本心は?何考えてるの?狐!
走り寄って、窓を開ける。
「狐・・・」


「開けてくれてありがと、お嬢さん」



狐の茶の髪が、見る間に白く白く、
眉も目も、肌も、真っ白に変化した。

顔つきが東洋から、西洋になった頃、
私はやっと、私の失敗に気が付いた。

この男、招かれざる客だ。