「オトリのほうが、
 危険だろ、
 危険な方、
 守るのに力入れんのが、
 普通だろ」

不貞腐れたように、
狐は、なお食い下がった。

「けど、実際に受胎するのは夕子だ」


「おまえは・・・!
 本体だけ無事なら、
 それでいいのかよ」

「いいよ」


迷い無く、


あまりにも迷い無く、シンが言い切って、
心臓が石のように、重くなってしまった。
ガチンガチンと脈打って、時間が遅く遅く感じる。

「狐、もういいから・・・、
 私が・・・、
 戦士として、
 もっと強くなればいい話だから」


ギリギリ、格好をつけることができたけど、
もう涙は鼻の上に迫って来ていた。

夕子が強張った顔で、
シンを睨んでいる。


ありがとう夕子、私の気持ちをわかってくれて。


ありがとう、何か言うのを、堪えてくれて。

今貴方が何を言っても、
貴方の立場が羨ましくて泣いてしまう。


私は、
無事じゃなくていいんだ。
私は・・・。
どうでもいい、
駒のひとつ。

大切にされない存在。


「ゆうこさん」
「・・・」

私が暗い顔をしているのに気づき、
シンが声を掛けて来た。

「気分を悪くしていたら、
 ごめんね」

大丈夫、と言いたいのに、声が出ない。
返事をしない私に対し、
シンは、困ったような顔をした。

大丈夫、と言いたいけど、大丈夫じゃない。


まっすぐ見つめて来る、
シンから視線を逸らす。

今すぐ夕子になりたい。

なんて考えている心を、
知られたらどうしよう。



ああ、帰りたい。

帰っても居場所なんかないけど。