アムステルダム空港から10分、
ホテルは、団地のような外観をしていた。

横に長く、巨大な建物の、
外側を飾るベランダには、
洗濯物を取り込むおばさんも見られた。


ロビーは広くて、はしっこに螺旋階段。
流暢な英語で、
シンがフロントと掛け合っている。

シンの隣には夕子。
頼もしく白人と交渉しているシンを、
じっと見つめている。

まるで、旅行に来たカップル。


私と狐はというと、
ロビーに置いてあったピーナッツの自販機に、
興味津々だった。

お互い、使い方がわからないのを、
悟られまいとしていた。

どちらかが、購入を試みるのを待っている。


そこへ、手続きを終えたシンがやって来た。
流れるように器機を動かすと、
自販機の中から、ピーナッツで満杯のカップを取り出した。

狐と私は幼子のように、
シンを見守っていた。

シンは私の手に、すっ、
と、そのカップを握らせ、
とどめ、
緩く微笑み、去って行った。



ああ、好き。


「俺の分は?」


シンの背に狐が声を掛けた。
シンは振り返って、不思議そうに、

「二人分でしょ、その量」

くったくなく言ってのける。
私だけに親切してくれたわけじゃないのね。

「一人分だろ」
「食いしん坊」

シンと狐のやり取りを、聞きながら狐の手に、
ざらざらと、半分を流し込むと、
私はシンのほうへ歩み寄った。

シンの傍で、こちらの様子を伺っていた夕子が、
にこりと笑い掛けて来た。

「ゆうこさん、私達、部屋、一緒・・・」
「テレビあるかな」
「あってもこっちの番組しか映らないよ」

夕子は空港で、今すぐに帰りたいと発言していた。
しかし、旅行にでも来ているかのような、
この和やかな空気に、いくらか絆されているようだった。