駅のざわめきの隅。


改札の脇。



「ゆうこ、」



彼の声は遠くから、沁みるような響きを持ち、

私の頭を麻痺させる。


私は駅に連れて来られていた。


一体何だろう。

この生々しい、現実離れした展開は。

風邪を引いて、
学校を休んで、
病院に行く時のような・・・、
不思議さ。

日常から外れる、心地よさ。

彼はその場に膝をついて、私の両手を握った。

「落ち着いて聞いて、」

形の良い眉を下げて、
彼は眩暈のするほど色気のある、真剣な顔をしていた。

「さっきの問いに、答えるよ」

背後に迫るような、視線を感じて振り向くと、
駅の中でもまた、人垣ができていた。

今度は海外の人がちらほら。聖職関係者だ。
家を取り囲んでいた坊主達といい、何。何なの。


「君はメシアを受胎する」


ドッキリテレビなのね。


「俺は君のソウルメイト、君の大仕事を手伝う」
「うそ・・・」

ノリよく、口に手を当て、衝撃を受けるフリ。

「これからスペインのサグラダ・ファミリアに行って、
 精霊の祝福を受けるよ、もうすべて、準備はできてるから」
「スペイン?」
「大教会にはそれぞれ、精霊が宿ってる、
 ファミリアはまだ完成してないだろ、その上、規模が大きい、
 新しく偉大な精霊が降りるには丁度いいんだ」
「えっ、スペイン行けるの?!」
「うん」

ゆうこ、と後ろで母親の声。
半笑いの母親が立っていた。
手には、去年作ったパスポート。

「これ」

母親に近づき、目と目を合わせる。
そんな半笑いじゃバレバレだよね。
「お母さん、私・・・」
「行っておいで」
脳内に、私が家を出てからの、
ネタバレ大会が流れた。
スタッフがやって来て、家族に事情を話す。

企画名は、現役女子高生は騙されるのか?
自分が聖母に選ばれてしまったら!!だろうか。