ふいに、狐の周りに、赤いものが渦巻いた。
狐の纏う赤い空気が、
渦巻いて流れているのだとすぐにわかった。

狐が尻尾から毟った毛が、
恐らく七本ずつの塊になって、
飛行機中の窓という窓に、
今度は矢のように早く、飛んで行った。

窓が100あるとしたら、単純に700本の毛を投じたのだ。
それは、禿げを心配するのも頷ける。

狐の毛の束が、窓をすり抜け、
勢い良く、窓を覆っていた布達を貫くと、
布達は一斉に散った。

乗客が安堵の声を上げ、
私は狐を見直した。

「じゃ、後は任せた」

「え?」


『空港の時のように、意識を集中させて下さい』


そういうことか。




狐の手が私の手を握った。
狐はそっぽを向いていたが、
応援するつもりで、
握って来たのだろう。
握り返す。
布達が素早く、飛行機の周りを回りだした。

どっか行って。


私達のこと、放っておいて。

お願い。


息を止めて、目を瞑り、強く念じた。
しかし布達は相変わらず窓の外に見える。
狐は今度は、
こちらを向き、あの獣の虹彩で、
私をまっすぐに見つめて来ている。

「どした?」

「集中はしてるんだけど・・・?」