窓際に狐、
隣に私、
空き席、

その前後と通路を挟んで、
坊主と聖職者が座っている。


『ゆーこちゃん、泣かしたぁ!』
友達が次々と、
『ひどーい』
囃し立て、
私を責める悪夢。

新都市のマンションで、
大小、学年バラバラ。

遊んでいた遠い昔、子どもの頃の思い出。

私は誰かを泣かせてしまい、
その子が泣きやむまで、
帰れないことになって、途方にくれていた。

友達はその子を私に押し付け、
(私が泣かせたから)
帰ってしまって、夕暮れ。


その子の顔も、性格も、
思い出せないのに、雰囲気だけ。
落ち着く、あの空気。身近な感触。

私はどうして、その子を泣かせてしまったのだろう。


『俺が見えないのか!』
ヘッドフォンから聞こえた、
映画俳優の声で、目を覚ました。

座椅子の前についた画面で、
各々、自由に映画を観られるのだ。

不慮の事故で霊になった男が、
恋人や家族に会いに行くという、
邦画を観覧していて、眠ってしまった。

『君に伝えたい言葉が、
 沢山あるのに・・・!
 どうして俺を無視するんだ、
 君が俺に気づいてくれる、
 それだけで俺は幸せになれるのに!』

映画の男が涙声で訴えている。
ぐすっ、と鼻を啜る音。

『どうしてなんだ!』

「気づいてやれよ!!」

男の叫びに重なって、隣から、
聞き覚えのある怒声。

「狐、声でかい!」

同じ映画の、同じシーンを観ていたらしい、
狐が涙をボロボロ溢しながら、
画面に文句を垂れていたので、
そのヘッドフォンを奪って叱った。

「他の人、もう寝てるんだよ?」
「・・・」

目に涙を溜めながら、仏頂面、
狐はむすーっと私を睨んだ。

「何でそんな熱くなってるの?」
「人事とは思えなくて」

そうか、そういえばこいつは狐で、
普段は人に見えないのか。

でも、今は全ての人に見えているみたいだけど?


「おまえは結局、
 俺に気づかなかったよな」
「何の話?」