『まもなく、離陸、致します』


いよいよアナウンスが流れて、
ゴーッと地の底から来るような音が、
機内に響きだす。

足元が斜めになった。


飛行機が浮かび上がろうと、
重力と闘い始めたのだ。


その時、
ギュッ・・・、


と何かに、

手を掴まれて、

見ると、

狐が顔面蒼白で、
私の手に、
自分の手を重ね、下を向いている。

さっきまでの、
威勢の良い調子はなく、
小さな子どもみたいに、
プルプル震えている。

「狐?」

呼ぶと手を握る力を強めて、
もう片方の、あの大きな男の子の手で、
すっかり自分の顔面を隠してしまった。

もしかして・・・。

「飛行機怖いの?」

素直に、こくんと頷いて、
指の隙間から片目を見せた。

「ちょ、大丈夫?!」




「・・・手、離すなよ」




「離さないけど・・・っ、
 ・・・吐きそう?
 エチケット袋、要る?」
「おい、登ってくぞ・・・!」
「そりゃ、飛行機だもん」
「し、死ぬ」
「死なないよ!」



機体が安定するまでの間、
緊張でガチガチの狐を構い続け、
手と手はすっかり汗でつるつるになった。

飛行機の上昇が終わっても、
狐は私の手を離そうとしなかった。

機体が安定して15分経過。

やっと、狐は私の手から、
自分の手を引っ込め、深く息を吐いた。

「ありがとな」

ぼそりと、礼を言って来たので、
私はチャンスとばかりに、

ヘッドフォンを装着して、

その言葉を無視してやった。