彼に近づくと、


溶ける間際のチョコレートのような、

香ばしく甘い、

誘惑の薫りがして、


思わず顔を上げる。



彼の背は私より15、6cm高かった。

真っ黒の髪は、少し癖を持って跳ねていた。


二重の優しげな目に、鼻筋が通っている、

所謂、

美しい顔の持ち主。眩しい。


少し首を傾げ、癒しの笑みを披露してから、


「迎えに来たよ」


なんて、涼しい声で言って、


彼は、



私を自宅から攫った。







「名前、聞いてもいい?」

空は夏色で、落ちるように深い青。

聞くと彼は神妙に、頷いた。


「高坂、」

「高坂・・・」

「高坂シンと申します、
 よろしくね」


「・・・、
 高坂君さぁ」


「シン」


「シンはさぁ、
 何?」



問いかけて顔を見た。



見なければ良かった。



涼しげで怪しげな、イケメンの微笑みは凶器だ。


その顔が「今は教えない」、と言って来たら、


「わかった、今は聞かない」と応えるしかない。



恐ろしい凶器で脅されて、私は言葉を失った。





同じ制服に安心して、うっかり攫われてみたけど。

この道は学校への道じゃないぞ?