シンを欠いた一行は、
旅客機の中、思い思いに離陸を待っていた。
私の隣、
シンの空いたスペースがすぅすぅと寂しい。

狐は天井を睨みつけている。


シンを待ちたいと何度も言ったけど、
聞き入れてもらえなかった。
狐と坊主は、シンを置いて先に進むことにした。

この旅に、私の意志はまったく、
反映されないことがわかった。


シン不在で日本を発つ不安を紛らわそうと、
私は携帯を開いた。
「ん?」
見覚えのないメールが、返信済みになっている。

送信したメールを確認すると、

絵文字のチョイスだとか、
言葉の運び方だとか・・・確かに私のメール、
が、友達の元に、

運ばれた形跡。

けど、返した覚えがない。


「狐、」
「あ?」

「なんか、変なんだけど」

「・・・どした?」

狐は真剣な表情で、
顔を近づけて来た。


人外の虹彩と、
美しい茶の目。

じっと、私を見つめ、


つり目を大きく開き、
私に集中してくれた。

「・・・」

黙り込んでも、気を逸らさない。
まさか、こんなに注意して構ってくれるなんて、
思わなかった。

緊張して頬が熱い。


「打った・・・、
 覚えのないメールが・・・、
 送られてるの、
 友達に」
「メール?」
「・・・メール、
 記憶のない返信履歴が、
 あって、
 それで、
 変だなって」

呆れられるような気がして、
こんな小さな事を、報告するんじゃなかったと、
瞬時に後悔した。

けれど、狐は口をへの字にし、
困ったような顔をしただけで、
くだらない、と毒づきもせず言った。

「それは、
 俺にはどうにもできねぇな」

思いの他真摯な、狐の対応に、
私はほっとして、涙が出そうになった。


「ごめんな」

狐は恐らく、シンの件についても、
被せて、謝りの言葉を口にした。