「それだ!」

狐が声を張上げた。


「今のだ今の、今の感じ、
 さっさとこっち手伝え」
「少しは褒めてよー、
 素人がこれだけ頑張ったんだよ?」
「ん、俺の特訓のおかげだろっ?!」
うぜえええ。
「それよりあいつどうにかしねーと」

巨大な手の正体は赤ん坊だったらしい。
指をしゃぶって、愛らしく笑っている。
その口に、セーラー服の切れ端。

「あいつ、さっきのオッサン食ったぞ」
「げ」

オムツの宣伝に出てきそうな、
可愛らしい赤ん坊、の頭がぐるぐると回り出した。
「きもい!!」
「同感」
狐と妙に息を合わせて、
感想を漏らしつつ、私はまた強く願った。

もうみんな、どっか行って。


コツは、集中すること。
バスケのボールを、ゴールに放るような、集中。
おぉ、と坊主達が低く歓声を上げた。
空港はもとの、白い空港に戻っている。
窓の外に、あの赤ん坊が、貼りついてこちらを見ている以外、
元通り。

「え・・・?」

狐が呆気に取られた声を上げて、
シンがすっくと立ち上がった。
「俺、そこら辺で何か買って来るよ、
 おなか空いたでしょ?
 今朝から、何も食べてないよね?」
「うん」
「おまえ何言ってんだ?」
狐の、謎の難癖を振り切って、
シンは私達に背を向けた。

それから1時間経っても、2時間経っても、
戻って来なかった。


坊主達が探しに行ったが、
結局行方はわからず、
私達は飛行機に乗り込んだ。

出国手続きは、また、なかった。