脳裏には魔犬に襲われた際に見た、
狐の火柱がくっきりと浮かんでいた。
狐は・・・力尽きたのかもしれない・・・。

「ゆうこ」

生霊のシンが、ゆうこさんを呼び、
前の座席から、手を差し出した。
ゆうこさんはその手を掴み、静かに泣き崩れた。

他の乗客は、優しい見て見ぬふりで、
していた雑談などをやめて、外を眺めだした。

ソフィスティケイテッドはゆうこさん達の様子から、
何かを悟ったのか、盛大に顔を歪めると、
額に手を当てて下を向いた。
私の胸にも、うっすらと、ぽっかりと、
絶望のようなものが広がって、肩が重くなった。

ゆうこさんの涙が、バスの中をどんどん、
塩辛い臭いにしていく。
親しい人が、消えてしまうということ。
身動きのできない、息苦しさなのに、
前に進まなきゃならないこと。
進まなければ、どうなるの。
進まなくてもいいんじゃないの。
もっと彼のために、悲しんで、悲しんで、
苦しまないといけない気がする。
前になんて、行っていいの?