「おまえ、シンが好きとか、
 言い出す気じゃねぇだろうな?」
まるで悪事を、咎めるような言い草に、むっとして口を尖らせる。
「・・・駄目、だからな、それは」

狐は狐目で狐耳の時のほうが、
格好良く見える気がする。

狐の狐たる要素が現れている時だけ薫る、
独特の野生の匂い。

それが、狐の動物顔を、逞しく彩って、
つりあがった目が、人外の美しさを強調していた。
「どうして?」
「どうしても・・・!」
「わけわかんない」


ふと、狐と私のやりとりを、
にこにこと聞いていたシンが窓の外を見た。

「あー・・・、
 やっぱ、
 すんなり出してはくれないか・・・」

また、【何か】が来たのだろうか。
「お下がり下さい」、と坊主たちが、
緊迫した声で、私とシンと狐の前に出た。

映画のワンシーンのように、
窓ガラスが割れるのを想像したけれど、
【襲撃】は思いの他、地味に行われた。

「ウッ・・・」

私は声を出してその場にへたりこんだ。
腹痛。腸をぞうきんしぼりされているような強烈さ。

「い、イタ、・・・いいい、痛ぁ、うう」

何これ。目が回る。
得体の知れない、恐らく何かの【霊】が侵入して来ている。
「く・・・!」
額にじっとりと、脂汗が出てきた。
「ゆーこ」
狐の声。
「しっかりしろ」
肩を抱かれ、安心する。
「・・・今、
 追い出す」
狐の声はぶっきらぼう。
「ぅ、ぅーっ、ふぅ」
唸って耐えるしかない、堪えきれない苦痛、
空港の白い床に、
汗がポタポタと落ちて行く。

首に、チュ、と音。狐の軽いキス。
キスを受けた場所から、
熱が体中に渡って行く。


痛みが消えた。