サグラダ・ファミリア

テオが狐に、最後の微笑みを向けた。


瞬間、狐が身を乗り出すが、
役人に殴られて頬で土を擦る。
ゴトン、とテオの座っていた方角から、
音が聞こえ小さな狐が身を揺らした。
水しぶきの音は、
首の離れた胴から、血の噴出す音だ。
狐の呼吸が可笑しくなり、
役人が少し慌てて狐の肩を摩ってやる。
狐は愛らしい少年の姿をしていた。
少年は乱れた呼吸のまま、苦しそうに地を這い、
爪がつぶれる程、石の床を掻いた。
涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を真っ赤にし、
歯で口の中が切れたのか、ポタポタと口から赤いものを溢していた。
高い神社の背は、崖になっていた。
小狐は崖の端に這って行った。
役人が立ち尽くして、狐を見守っている。
後を追うほうが楽だろうと、判断される程、
懐いていたのかもしれない。
狐の小さな体が、崖から落ちると役人は顔に手を当てた。
鼻の頭を赤くして、可哀想な人間と動物の死を見届けた。

しかしここにこの狐が居るということは、
あの小狐は、死ねなかったのだ。


私は意識的に、小狐のその先の苦労を、
見ないよう頭から画を消した。

「狐・・・」

思わず声を掛けた。
狐の顔は青ざめて、不安に歪んでいた。

「消えないよ」

引き寄せて抱きしめた。


私が狐を失ったと感じた、あの時。
空港で味わったあの苦しみ。どれだけ辛かったろう。
あの小狐は、あの小狐のその後は。