「ゆーこ・・・」

空港の真ん中、電光掲示板の前まで来たところで、
二つ目の事件が起こった。

「ん?」
狐の遠慮がちな、掠れ声が、空港に響いた。
広い建物の中は、真っ白で音がない。
 「」
狐は何かを、言いかけて黙ると、眉を寄せて、
そっぽを向いた。
「何でもねぇ」
「・・・え?何が?」
わけがわからない。

「狐も、ゆうことキスしたいって」

シンの軽口。
に、狐が耳を狐にした。

「そんなに動揺することないだろ」
シンが呆れた声を出すと、
狐は悔しそうに鼻に皺を寄せ、きっ、と私を睨んだ。

睨まれたら、睨み返すだろ。

「おまえ覚えてろよ!!」
三下の悪役でも、今時吐かないような陳腐な台詞を、
私にぶつけた狐の顔は青い。

怒ってるようだけど、私達別に付き合ってたりとかしないし。
怒る権利とか貴方にないよね。

「狐のエッチ」
また、シンの軽口。
「あ゛?」
シンに今にも、掴みかかりそうな勢い。
「ちょ、落ち着いて」
私は思わず、狐の二の腕に手を添えて、狐を諭す役を買って出た。

狐は、心底腹立たしそうに、私に振り返って、また、
私をまっすぐ、睨んだ。

動物的な目。動物的な耳。
特殊メイクを施された、ハリウット俳優のようだけど、

この目も耳も、たぶん、本物。