狐が顔を上げ、クイナの抱えていた木の人形に飛び乗った。
クイナの腕の中の木の人形は途端に、
人ならざる美を纏う、
髪の長い女に代わり、
乗客、ドアの向こうに並んでいた人をもどよめかせた。

ヒュゥッと口笛を吹き、数人の男達が歓声を上げたが、
狐はそれを無視してクイナの腕から降りた。
『どういう意味だ』
ドアが閉まろうとしている。
私達はまだ車内に居た。

「まず降りよう」

シンが前に進むのを、狐が阻止した。
ドアが閉まった。
私達は目的の地を過ぎた。
『何を隠してんだ?!』
国籍不明の美女が、
日本人男子に詰め寄るの図、
男と女というより、
女と少年という感じ。
『おまえはいつもそうだ!
 大事なことを隠して、
 俺を騙す!!
 何だよ、生存を主張って』
『僕らは生贄だ、
 メシアの養分となる霊体なんだ、
 覚悟してたけど、
 最後の最後で、
 怖くなっちゃって、
 ゆうこが未来に死を感じて泣いたでしょ、
 成田に向かう電車で、
 あれ見て・・・、
 可哀想だなって思ったら、
 そういえば俺も何で消えなきゃいけないんだろう?
 なんてさ、命が惜しくなったんだ、
 人間をやめたら、人間になりたくなった』
『・・・』
『空港で、急に、いなくなってごめんね、
 逃げようと思ったんだ、
 で、上手く逃げられた、
 けどゆうこはどうなる?
 ゆうこは何も知らずに、
 連れて行かれて消される、
 そう思ったら居ても立っても居られなくなって、
 縁があったヴァンパイアに助けを求めたんだ』