最初の駅を出た時より、
車内は混みあって暖かくなっていた。
白人達のきつい体臭を隠すための香水が、
車内に溢れていた。
狐はさかんに鼻をピスピス鳴らし、
壁に貼ってある停車案内表を見つめた。

問題の駅、Sagrada Familiaに電車が止まり、
私と狐は同時に息を吐いた。

「次だね」
シンが声を掛けて来て、思わず笑みが浮かぶ。
教科書に載る程、有名な建物への好奇心、
電車から降りたい気持ち、
早くこの得体の知れない冒険を終わらせたい気持ち、
夕子に会いたい気持ち、
この先の私の、特殊になるだろう生き方への不安・・・。

ごちゃまぜの心が、震えてシンの手を求めた。
シンは私の手をぎゅっと強く握って、
迫って来る駅のホームを睨んだ。
電車が停止してドアが開いた。
白髪とクイナ、狐、
私がドアに向かい歩を進めたその時、シンが呟いた。

「僕らは生存を主張する」

私が振り返ると、薄く笑った。

「僕らは消えない」


ずん、と心臓が重くなった。嫌な予感。