「少しは回復したの?」
獣はシンを見ない。
「おはようシン」
「おはようゆうこ」
シンの姿は怠惰だった。
寝起きで少し乱れている衣服や、
気だるげな声、
雰囲気の色っぽさに、
同室にならなくて良かったと、
心底思う。
大きな黒目が眠たげにトロリとしていた。
「ねぇ君、そこから出発の準備整えるの、
 何分掛かる?」
白髪の問い。
「5分」
シンはきっぱり言い切った。
「いや無理だろ!ヴァンパイア舐めてんのか!!
 考えて喋れよっ!
 もうっ、出発時間設定したのおまえの癖にっ、
 まだそんな格好とかねぇわ!
 俺なんかもう準備終えて10分前待機なのに!」
白髪の腕を引いて、腕時計を見る。
8時50分。
出発の予定時間は9時だ。
「やっば!」
頭に手を当てて、寝癖をチェック。

シンが狐に向かい、指先でコイコイの合図をした。
狐は尻尾をパタンといわせ、
ふいっとそっぽを向いた。
大きめの猫、小さめの犬、というサイズで、
くりっとした目とシュッと窄まった鼻。
狐は愛らしい動物だった。

「ふふん、嫌われてやんの」

白髪がにやにやしつつ、狐の頭をナデナデする。
私もつい、しゃがんでナデナデに加わった。
シンもふらふらとやって来て、手を伸ばした。
狐はシンの手を甘噛みしてシンを拒絶した。
「ざっまぁ!!!ざあっまぁ!!ははーん!!」
白髪が幼稚な敵意を全面に出して叫んだ。
シンは噛まれた手を見て、狐を見てむくれた顔。
「何?
 君が弱ってる間にゆうこにちょっかい出したの、
 根に持ってる?」
狐は下から伺うよう、シンを睨んでいる。
シンはめげずに手を出した。また噛まれる。
「・・・」
手を見つめて顔を顰めるシンの姿は、
情けなくて可愛らしい。
つい微笑んで見守っていたら、
シンと目が合った。
「どうしたらいいかな?」
「油揚げでも上げたら?」
素直に、助言を求める所も、子どもっぽくて良い。
思わず口元に手を当て下を向いた。

うぅ、キュンキュンする。