動物の前足が、腹に食い込んでいる感触を、
想像できるだろうか。

ふにっと肉の中にめり込んだ小さな足の重み。
それはくすぐったく、私を起こした。


「・・・犬?」


鼻の小さい犬が腹の上にチョンと立っていた。
背は赤茶。
胸から腹は白いふわふわ。
緑がかった金の目は美しいガラス細工のよう。
見覚えのある獣の目。
「狐?」
直感で聞いた。獣から返事はなかった。
獣はピョン、と跳ねてベッドの下に下りた。
それからドアをカリカリする。
出せということ?
強請られるまま、
ドアを開けると朝の日の光が廊下に篭っていた。
気持ちの良い光景に、呆けていると獣は足に絡んできた。
「兄ィ!!」
聞き覚えのある声に顔を向けると、
部屋のすぐ傍に立っていたらしい白髪が歓喜していた。
「消えてなかった!
 消えたけど!
 消えてなかった!!」
わぁい、と獣を抱き上げて、くるくる回りだす。
朝から元気な男だ。
「やっぱり・・・狐なんだ・・・?」
直感していた癖、他人からそうだと言われると確認したくなる。
「妻の癖に確信がもてないなんて、酷い人」
「妻じゃないしっ!!
 普通人と獣をイコールで結ばないし!!」
白髪は狐の姿が愛らしいのに調子に乗り、
キスの雨を降らせていた。
狐が白髪の顎を前足で押した。
「嫌がってない?」
獣はつぶらな目で、白髪を睨んでいる。
「嫌がってないない!」
白髪は勝手解釈。
「いやぁ、驚いたなぁ、
 てっきり消えてしまったんだと思ったから!
 兄ィの生命力ぱねぇ~!」
「・・・私は信じてたけどね、
 狐は消えてないって」
空港の惨劇の後、現われたシンが、
前世の声で、狐に話し掛けた時、
私の内側に、狐は確かに存在していた。


「早かったね」

シンが私の隣部屋から顔を出していた。