「夏の若者にはTUBEだろ」と、いう年寄りの思考でアルバムがヘビロテな車内に、今は神山さんの寝息が混じっている。

「良い娘だね。嫁に貰うか?」
おじいさんがニヤニヤしながら言う。


あの後、砂浜を全力疾走できる陸上部スペックについて行けず、ものの数分で俺がぶっ倒れて。
結局、なんか砂浜でうだうだして、遊びの時間は終わってしまった。
「今日はつまらなかったよね。ごめんね」
俺が謝ると、
「ううん。
海キレイだったし、五十嵐が優しかったし。
大丈夫。楽しかったよ」
神山さんはそう言って笑ったのだった。


車内では夏の暑さと恋の熱が歌いあげられている。
おじいさんの好きそうな歌詞。
「…おばあさまに告げ口しますよ」
「からかっただけで!?
…ま。お前にまた友達が出来ただけでも嬉しいけどさ」


だいたいそんなロマンチックな話なら、あのセリフの後に「お魚もいっぱい貰ったし。コレやっぱり煮付け?」とか言わないよ。



神山さんは熟睡度が増したのか、くたりと寄りかかってきた。
髪から熱い砂浜の匂いがする。

「五十嵐〜」
寝言?
「…遅い」
「君が速いんだ。無理言うな」
つい口に出して言ってしまう。

おじいさんが爆笑した。