「海に行きたい!」
秋休みの直前の昼休み。
神山さんが寄って来たかと思ったら開口一番そう言った。

クラスメートの神山さんは、夏休み前のちょっとした一件からよく接してくるようになった女子だ。
人に言わせると「かなり懐かれて」いるらしい。

それにしても、
「なんで俺に言うの?」
「五十嵐(いがらし)んちの玄関にタモがあったから」
目敏いな。
「釣りに行きたいの?」
「今年の夏に海に行ってないの!」
部活で潰れたんだ…。
運動部、しかも陸上部のホープって話だったから無理もないだろうけど。

「そろそろクラゲが出るでしょ?磯遊びか、せいぜいスイカ割りだよね」
「釣りと磯遊びを一緒にしない方が良いよ」
俺の溜め息の意味を神山さんは否応なく知る事になる。