私はお姉様が帰ってくるまで、寝ていようと思った。

「───急がないと女王に殺されてしまう」

寝ようと思い、目を閉じた。が、知らない人の声が耳元で聞こえたのでとっさに目を開けた。誰よ、私の睡眠時間を邪魔したのは。

私の目の前にはスーツを着た男の人がいた。その人は半分寝かけの私を見下ろしている。

「ちょっと、何ですか?」

邪魔なんだけど、と言う雰囲気を私は出した。
そしたら、男は言った。

「はじめまして、アリス。貴女を迎えに来ましたよ」

男はニッコリと不気味に笑いながら言った。

「迎…え…?」

私は驚きよりもこいつが怪しい男だと判断した。

「アリス、不思議の国に興味がありませんか?」

「…………」

私は無視した。
こんな怪しい男は無視するのが正解だろう。

「私は白兎です、不思議の国に行きませんか?退屈する事が無いですよ」

私は男の言葉に反応して立ち上がり男の前に立った。

「今、あなた不思議の国にって言ったわよね?」

まさかこの人はこんなつまらない日常から私を連れ出してくれる人なの?

「えぇ、不思議の国は決して貴女を裏切らない」

白兎と名乗る男は私の瞳を真っすぐ見て言った。

「さてアリス、もう一度聞きますよ。不思議の国に行ってみませんか?」

これが最後ですよ、と後押しした。まさかこいつは私が不思議の国に行きたい事を知ってるの?

「……行きたい、退屈しないなんて夢みたいな世界じゃない?」

私は返事をした。
行ってみたい。そして、毎日が楽しい生活をしてみたい!

「では、参りますよ。アリスは私を追いかけて下さい、クス」

男は笑いながら言った。
その笑いさえも私には不思議に見えてしまった。私は言われるがままに白兎と名乗る男を追いかけた。ずっとずっと追いかけた。

普通なら足が痛くなるのに今はならないの。だってもう少しで不思議の国に着くのよ?これくらいなら私はへっちゃらなんだから。
白兎は私を見向きもせず走るの、私はそれを必死に追いかける。


そう、白兎との出会いが今から出始まる物語の合図だった。





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