その刹那。 彼女は、夕の恋人だということが分かった。 そのことを自分の中で理解した瞬間、何かが自分の中で、止まった。 俺は素直じゃない。 いや、そのときの俺は、夕の彼女からの好意を、素直に受け止められる程大人ではなかった。 「……どーも。じゃ、俺、下に行くから」 自分でも分かる程の、ぶっきらぼうな態度。 ベッドの上に鞄を放り投げ、逃げるように部屋を出た。 階段を降りる足は、自然と早くなっていた。