『そろそろ正社員になりたいからよそへ行く』と樹は言ったそうだ。
『今は無理だけど欠員が出たら必ず社員にするから』って、社長さんは約束してくれたのに
『だったら祐二をそうしてやってください』と彼は頼んだらしい。
『あいつがんばるからお買い得ですよ』って。
「余計なお世話なんだよ」
うめくように祐二さんはつぶやいた。
「俺な、まこっちゃん。春になったら香美と結婚するんだ」
「ええっ!」
「今度向こうの親にあいさつしにいくことになっていて、そんな事情も知ってるから、樹は自分がかぶってくれたんだよ」
そうだったんだ……。
「でも結婚だなんてステキだね。おめでとう、祐二さん」
そう言ってみたけれど、祐二さんはむずかしい顔をしたままだった。



