「飲むか?」
もう一度ちゃんと謝ってみようか考えていると、不意に樹の声が訊いた。
え……?
まさか彼がそんなことを言うなんて、思ってもみなかった。
だって樹は……
会社の人たちと居酒屋にいくときとか、たまーにわたしも連れて行ってくれて
『少しくらいいいよなぁ?』って
誰かがわたしにお酒を勧めたりしたら、いつも血相変えて飛んで来てくれた。
『ダメダメダメ! 真琴は未成年だから絶対にダメだ!』ってね。
『ちょっとくらい平気だよ』なんてわたしが言おうものなら、
『バカッ、ダメったらダメだ!』って怖い顔してくるんだ。
わたしはそれがうれしくて、ホントはお酒なんて別に飲みたくもないんだけど、
『えー、わたしも飲む―』とか、いつもだだをこねて叱られてたっけ。
優しい樹。
いつもわたしを守ってくれていた樹。
そんな樹はもういないんだね。



