この期に及んで樹の優しさにすがる。
「こ、こんな夜中に一人で歩くの怖いよ。タクシーだって怖くて乗れない」
「は?」
「疲れてるんなら何もしゃべらなくていいから、今夜は樹の部屋に泊めて……ください」
ペコンと頭を下げた。
う、と一瞬彼が絶句したのがわかる。
樹はもう、わたしとは会わないつもりだ――。
それが伝わって来る。
だけど優しい人だもん。こんな時間に女の子を外に放り出すなんてできないよね?
どんなに卑怯でも、何とか部屋にあがりこんで、状況改善を図ろう。
もしもビールに酔った樹のベッドに、わたしが滑り込んだとしたら……
樹はわたしを……、抱いてくれる?
もしもそうなったら、凍った心はちょっとくらいとけてくれるのかな?
自分にそんな度胸があるのかはわかんないけど、樹と別れずに済むのなら何だってできる気がした。



