「樹の部屋に行ったら、窓から美里さんが見えたの」
考えがまとまらないまま一言ずつ声にする。
「濡れた髪を拭きながら、バスタオルを2枚、物干し竿にかけていた。
美里さんは部屋を振り返って誰かとしゃべっていて……。
女物の洗濯物がぶら下がってるのが見えたよ」
樹は前を向いたままハンドルを握っている。
「部屋にいたのは、樹……だよね?
美里さんと暮らしてるの?
シャワーとか……一緒に浴びたりするんだ?
わたし、もうわけがわかんなくなって、気がついたら大淀をホテルに誘ってた」
そうだよ、自分から誘った。
「だけど、何もなかったんだよ……!
大淀はわたしがやけになってるってわかってくれてたし、わたしも樹のこと想って泣いちゃって……。
ホテルには入っただけで、なんにもないまま出てきたんだよ」
表情の読めない樹の横顔を見つめて、息を詰める。



