「帰ろう」
大淀が言った。
「……イヤ」
「家まで送るよ」
「帰り……たくない」
家に帰ったら部屋にこもって、樹のことを思い出して、ずっと泣くんだ。
ずっとずっと……。
一晩中泣き続けても、樹のことしか考えられなくて
泣いたからって、想いが叶うわけでも全然なくて
もうあの笑顔は、わたしの手には入らない。
今日も明日もあさっても
1週間たっても1ケ月たっても1年たっても――。
それはまるで気の遠くなるような拷問。
「もう、樹のこと……考えたくない……よ」
「上野」
「忘れたい、今すぐに……」
小さな声でつぶやくと、大淀がわたしの肩に手を置いた。



